2020/11/02 10:52


麦秋鮮烈 1977年 Photo by Shinzo Maeda



前田真三・前田晃・前田景

3代で撮り続ける丘の風景50



1971年、風景写真家・前田真三は初めて北海道のほぼ中央に位置する美瑛・上富良野の丘の風景と出合いました。鹿児島から北海道へ3ヶ月をかけた日本列島縦断撮影旅行を行ったその帰路、昭和46712日の昼下がりのことです。その時の模様を後年、こう記しています。



『爽やかな初夏の風が心地よく丘を吹き抜けていた。あたり一面真っ白いジャガイモの花畑である。ゆるやかな丘は適当な起状を保ちながら果てしなく続いている。空は抜けるように青い。目を東に向けると、眩しいばかりの残雪の中に噴煙を真っ直ぐ天に突き上げている十勝岳の主峰。やや北に目を転ずると、トムラウシから大雪連峰が指呼の間に望まれる。


先程から私は余りにも大きく美しい眼前の風景に心を奪われていた。かつてこれだけおおらかで、心にふれる風景に出会ったことがあったであろうか。


-この丘との最初の出会いである。』



それから足繁く東京から美瑛へと通うようになり、丘の四季を撮り重ねていきます。1974年に出版した前田真三最初の写真集『ふるさとの四季』に丘で撮影した写真4点を収録。前田真三の代表作とも言われる『麦秋鮮烈』はその3年後、1977年に美瑛で撮影されています。


1981年に写真集『北海道-大地の詩』、1986年に『丘の四季』を上梓。丘の風景とともに、前田真三の名はより広く日本中に知られることになります。


そして、1987年。廃校となっていた美瑛の旧千代田小学校の体育館と教室を改装し、フォトギャラリー拓真館が開館します。「拓真館」とは、「写真の可能性を切り拓く」という前田真三の想いと「拓進」という地名から名付けられました。丘の風景写真の展示はもちろん、敷地内にはラベンダー畑や白樺の回廊をつくるなど、ギャラリーの枠を越えた自然と写真の美しさを体感できる空間として多くの人々に愛され、美瑛観光の礎となっていきました。






1998年、前田真三が他界。日本の風景写真界に大きな足跡を残しました。前田真三の作品と拓真館は息子である前田晃に託されました。前田真三の右腕として唯一人のアシスタントとして長年撮影をともにしてきた前田晃は、誰よりもその写真哲学、自然への眼差しを理解しています。風景写真家としても自身の作品を発表しながら、父・真三の展覧会のディレクションや写真集の出版を精力的に行ってきました。




桜咲く丘 2018年 Photo by Akira Maeda



時は流れ、2020年春。前田真三の孫であり、写真家・アートディレクターである前田景が、東京から美瑛へ移住しました。前田真三が亡くなってすでに20年以上が経ち、その存在や作品も徐々に遠い存在になりつつあります。いま一度、拓真館と丘の風景を知ってもらうために新たな光を当てようと、自身も写真家として丘を撮影しながら、拓真館リニューアルへの第一歩を踏み出しています。


2021年で前田真三が1971年に美瑛を初めて訪れてから、50年。変わり続ける美しい丘の風景を追い求めて、親子孫3代に渡る物語は、これからも続きます。ぜひ、美瑛の丘そして拓真館へ足を運んでいただければ幸いです。




Snow colors 2018年 Photo by Kei Maeda



Profile




前田真三 Shinzo Maeda  1922-1998


1922年東京都八王子市下恩方町に生まれる。東京府立織染学校、拓殖大学を経て、1944年館山海軍砲術学校(第三期予備学生)を卒業。スマトラ島サバンで海軍中尉として終戦を迎え、翌年復員。1948年日綿實業(株)入社、以後17年間勤務。1967年(株)丹溪を設立し、写真活動に入る。1974年初めての写真集『ふるさとの四季』を出版。以後、風景写真の分野に独自の作風を確立し、数多くの作品を残す。代表作に『出合の瞬間』『一木一草』『奥三河』『丘の四季』などがある。1987年、北海道美瑛町に自らの写真ギャラリー拓真館を開設。日本写真協会賞年度賞、毎日出版文化賞特別賞、勲四等瑞宝章、美瑛町特別功労者章などを受賞。


instagram: @maedashinzo





前田晃 Akira Maeda  1954-


1954年前田真三の長男として東京都世田谷区に生まれる。中学生の頃から父の撮影に同行。早稲田大学第一文学部卒業後、(株)丹溪に入社。以後、大半の撮影で助手を務めながら、さまざまな真三作品のディレクションを担当。1993年頃から助手という立場を離れ、独自の撮影活動を開始。進化した丹溪作品を生み出している。写真集に『Intimate Seasons/四季の情景』(講談社インターナショナル)、『春の小川はさらさらいくよ』(ピエ・ブックス)、『二人の丘』(講談社)、『ミッフィーのいる丘』(講談社)など。写真展に「丘を巡る季節」、「花あわせ」、「見つめる木」、「一片の山水」などがある。





前田景 Kei Maeda  1980-


1980年前田晃の長男として東京都世田谷区に生まれる。アートディレクター、フォトグラファー。多摩美術大学グラフィックデザイン科を卒業後、広告デザイン会社、広告代理店を経て、2015年より祖父であり風景写真家である前田真三のつくった(株)丹溪に入社。広告、書籍、ウェブなどのデザインを手がけながら、フォトグラファーとしての活動も開始。2017年には初の個展「WHITE ROOM」を東京のgallery fèveをはじめ、全国4ヶ所で開催。2020年に北海道美瑛に移住。デザイン、写真の仕事と並行して前田真三写真ギャラリー「拓真館」のリニューアルを現在計画中。


https://maedakei.jp/
instagram: @maedakei